美勇伝握手会・残酷物語 第3話 〜嗚呼、無惨〜
梨華ちゃんへ、自分の正直な気持ちを伝え、一人、悦に入り浸るタイタス。
(http://d.hatena.ne.jp/Titus/20050615)そして、事件は起こった・・・。
「梨華ちゃんに伝えるべきことは伝えた!そして、手応えがあった!」
その高揚感が冷めやらぬまま、ほんの数秒で、みーよの前へ。
三好絵梨香。
みーよ並びに彼女のファンの方々には申し訳ないが、自分の中で、まだ、これといって彼女の魅力を発見できずにいたので、彼女に対しては、特にメッセージは考えていなかった。無理もない。美勇伝には、突発的に恋いこがれてしまう梨華ちゃんや、大量破壊殺戮兵器“岡π”を有するゆいやんがいるのだから、どうしても、みーよは己が心中に入る隙がなかったのである。
「頑張ってください。」
その一言で良かったのだ。梨華ちゃんやゆいやんと言った強力なライバルがひしめく美勇伝にあって、今後、なんとか頑張って、他の二人に負けないぐらいのキャラを確立させてほしい。その想いを込めての「頑張ってください。」それで良かったのだ。
しかし、その一言だけではなんだか物足りない感じがした。みーよだけには適当なメッセージを贈るのはいかがなものか。そして、梨華ちゃんとの握手の時のように、みーよにも何かしらのインパクトを与えたい!そんなしょうもない欲がじわじわと出始めた。
「『頑張ってください。』の一言でいいじゃないか!」
「いや、それでは、みーよが不憫すぎる!」
「じゃあ、もう、ネタは出来てるのかよ!」
「ええっと・・・ええっと・・・。」
そんなくだらない自問自答が幾度と無く繰り返された最中、突然、無意識に、己の口がパカッと開いた。
「さりげなく、愛しています。」
・・・自分でも信じられなかった。なぜだ、なぜ、梨華ちゃんのみに伝えたかった言葉をみーよへ放ったのか・・・。
みーよには、これと言った思い入れは無い。ましてや、彼女を間近で見た瞬間、恋こがれたわけでもない。梨華ちゃんとの握手で得た充実感が頭の中で一杯になったがあまり、あの言葉が離れられず、そのまま、ポロっと、無意識に発してしまったのだ・・・。
冷え切った一瞬の静寂。
「・・・ありがとうございます。」と、普通に応えるみーよ。
こころなしか、その表情に陰りがあった・・・。
おそらく、その言葉は、既に、みーよは隣で耳にしている。その直後に、「愛している」とか言われれば、困惑するのも当然である。
嗚呼、なんと、ひどいことを!
それまで、己が心中を満たしていた自己満足感が、一気に、自己嫌悪感に変わっていた・・・。
その後のゆいやんとの握手は、よく覚えてない。しどろもどろながらに、ゆいやんに「いつも、お世話になってます。」という言葉を伝えたことだけは覚えている。
そして、逃げるようにして、会場の外へ・・・。
梨華ちゃんには伝えたいことは伝えたのに・・・。
喜んでしかるべきなのに・・・。
でも、己の優柔不断さがすべてを台無しにしてしまった・・・。
ああ、結局、自己満足だったのだなぁ・・・。
そして、みーよには、ほんとに申し訳ないことをやってしまった・・・。
あのとき、確かに得た手応えは、既に消え去っていた。心中に残ったのは、黒くうずまく罪悪感のみ。
晴れ渡った鶴舞の空は、なんだか、どんよりと黒く見えた。 <了>